取材日和:The Terminal Kyoto
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作家インタビュー

平井 秀

Shu Hirai

陶芸作家

Ceramic artist

平井: 秀

インスピレーションの源

平井:秀

:本日は宜しくお願いいたします。 平井さんの作品は全体や細部に渡ってとても人の手が入っているなと感じるのですがそういった作風になった経緯や原体験などご自身で思い当たることなどあればお伺い願います。

 

平井手を入れることに関しては、もともと人工物というか、人の手のかかったものとか建築物がとても好きで、細かく手をかけるようにはなった理由はここにあると思います。

 

:自然物よりも人工物が好きというのに驚きました。

 

平井自然物ももちろん好きですが、一番最初にビビッと来たものが「青銅器」だったんですよ。青銅器を見たときに感じたインスピレーションで、造形の美しさの中に人の念というか、思いや考えが強烈に内包されているように感じて。 どうにかしてこれと同等、もしくは超えられるものを作れないかと感じたことが、人工物を好きになったきっかけですね。

 

:青銅器が原点なんですね。

 

平井:そうですね。 青銅器から始まって、色々な昔の人工物を調べたりして、最近のものだと戦闘機や武器、銃とかの造形も好きです。機能的な物が好きですね。

 

:そういう目線で銃などを見たことはなかったのですが、形状や溝の入れ方など機能を向上させるための加工以外は入っていないと思いますが、それが装飾とも取れる造形ですよね。

 

平井:なので僕は、基本的に機能的な作品しか作りません。 機能的とはいっても銃や武器のように合理性を突き詰めた物ではなく、あくまで機能としてお皿であったり花器であったりという状態が成り立つ物が好きなので。 用途が明確にあるものに価値を見出していて、いわゆるオブジェはあまり作っていません。

 

:そうなんですね。 ですが平井さんの器や花器からは、オブジェ的な要素を強く感じます。

 

平井:そうですね。(笑) それはやっぱり、「青銅器」に対する憧れがあるからです。今回、昔の作品を一点持って来たのであとでご覧ください。 「青銅器」の影響を色濃く受けている作風ということがより分かると思います。

 

:確かにそうですね。 器の外側全体に溝が掘られていますが、これは装飾的な要素ではなく掴みやすくするために入れているのですか?

平井:秀 陶芸作品

平井:最初は、装飾として裏表が一緒というのが嫌で入れていたのですが、いずれ他の方たちからその溝が機能的だと言われることがあり、(あ!なるほど)となりました。

 

:意図はしていなかったんですね。

 

平井:後からの気づきです。(笑)

陶芸の世界に入ったきっかけ

縁側インタビュー

平井:大学進学時の進路で絵が好きだったので絵画を学ぼうと大学のオープンキャンパスに行った際に、立ち寄った陶芸ブースで初めてロクロに出会ったのがキッカケです。

 

:ロクロですか?

 

平井:ロクロです。 僕は当時ロクロというものを全く知らなくて、器がどう作られているかも一切興味がなく、それこそテレビなどのメディアでも見たことがなかったんです。本当に存在自体を知りませんでした。

 

:ということは高校までは陶芸に関してまったく興味が無かったということですか?

 

平井:はい。一切興味ありませんでした。 オープンキャンパスで初めてロクロと出会い、何もない塊から器ができていく過程を見て表現としてすごい可能性を感じました。 絵画に興味があったのですが、ここをきっかけに気持ちが完全に陶芸へ切り替わりました。

 

:劇的な展開ですね。

 

平井:そこから一気に陶芸にどっぷりです。 でも大学に入った当初は、器よりもオブジェばかりを作っていました。器の制作に入ったキッカケは、入学から一年ぐらい経った頃に華道と出会ったからです。 そこである方に「陶芸をやっているなら花器を作ってみたら。」と言われたことがキッカケでした。そこからは夏休みも毎日学校に行ってロクロの特訓をしていました。

 

:一番最初は花器だったんですね。

 

平井:当時は花器ばかりを作っていました。それ以外の器を作り始めるのはだいぶ後になってからです。用途性のあるものを作りたい欲求が強くありました。 基本的に作家の仕事は作って人の手に渡ったらおしまいって感じじゃないですか。 けど、そこから変化していく姿も見てみたいんですよ。花器だったらお花を生けることで違う姿に変わるし、食器であれば毎日使ってもらえれば違った景色になります。 使ってもらうことで変わる景色を見たいと思っています。

 

:現在は様々な種類の器を作られてますが、作り始めたキッカケがあるんですか?

 

平井:手数を増やすことで別の道が見えることもあるだろうし、より良いものを作れるようになるだろうと期待を込めてですかね。今はそれで器をたくさん作っている感じです。

 

:そうなんですね。 昔と今の作品で特徴的な違いがあるのが釉薬だと思うのですが 釉薬を選んだ経緯を教えてください。

 

平井:青銅器や鉄器が好きだったので、ふさわしい釉薬を常に探していました。その中で、昔やってた造形に悩んでいた時期があって「もっと洗練したものがつくりたい。」 そうするにはもっと器を作る技術を高めないといけないと思っていた時期に、今使っている釉薬に出会ったんです。本当にちょうど良いタイミングで求めていた釉薬が手に入ったので今の作風に自然となっていった感じです。

 

:ちなみに二種の釉薬を使って表現されていますが、これは以前からやっていた手法ですか?

 

平井:学生の頃からですね。もともと二種類を重ねる方法を色々とやっていたんですが、試行錯誤のなかで生まれてきた技法です。

 

:改めて今の作品が生まれた経過を知ると作品に対しての理解度がより深くなっていきます。

 

平井:そう言っていただけるとありがたいです。

 

:納品の度に、造形が洗練されていっている印象と共に新しい表現の作品が何点か含まれていて、すごく攻めの姿勢を感じているんですが平井さんのモチベーションの源泉はなんでしょうか? 

 

平井:僕の制作の基準とする一つが、バリバリの主観で自分が格好良いと思うことが一番大事なんですよ(笑)

 

:バリバリの主観で格好良いものですか。 そのせいで作品の削りを攻めすぎて失うこともあるわけですよね。(笑)

 

平井:ありますね。(笑) 作品を折ってしまったり焼いて曲がってしまうこともあるし。 取れ高が極端に低くなるときがあります。

 

:攻めの姿勢の理由がよく分かりました。 それぞれ個性が強い作品ですが個も全体もバランスが取れていて私は大好きです。

 

平井:そういったバランスも大事にしています。

 

:だけどバリバリ主観で攻めるんですよね。(笑)

 

平井:まぁそりゃあ攻めます! 自分が楽しいのが一番ですから。(笑)

 

:平井さんは本当に多種多様な形状の器や花器を作られていますが、最近の作品で心がけていることなどありあますか?

 

平井:最近の作品は重心を下に持ちつつ、口部分を薄くする造形にしています。 ちょうどいま、大きめの馬上杯を作っていてそれもだいぶ重心を下に持っていっています。

 

:それも面白そうなのでぜひ納品をお願いします。(笑) 今後も作風は変化していくと思いますが劇的に変わる可能性はありますか?

 

平井:もちろんあります。 今作っている黒金(くろがね)の作風のようにビビッとくるものがあればすぐ作り始めると思います。

平井:秀

:黒金と平行して紅炎(こうえん)や熾火(おきび)など他の作風も出しておられますが、現在挑戦している新しい作風のものは何かありますか?

 

平井:今までは暗めの色調のものが多いので今は白色の器に挑戦しています。 白は常々やりたいと思っていたんですが、まだビタッっとくるものが出てきていないんですけど、釉薬か土か…まあもう少し時間はかかると思います。 色々と作品の幅を出したいとは思っているので満足いくものが生まれれば早めに出したいです。 また、だいぶ先の取り組みになるかもしれませんが、オブジェを作るという要素が残っています。他の人の作品では好きなものが多いのですが、自分の作品としてオブジェを作ることに関してはまだイメージがなく、作ることができていません。

 

:主観で格好良い作品が生まれることを心よりお待ちしております。変化の速度が早いので今後どういった表現をされていくのか非常に気になる作家さんです。

 

平井:自分でも気になっています。(笑)

 

:本日は貴重なお時間をありがとうございました。

平井:秀