取材日和:The Terminal Kyoto
取材日和:The Terminal Kyoto

作家インタビュー

日比 暢子

Yoko Hibi

刺繍作家

Embroidery artist

日比 暢子

伝えることの難しさ

日比暢子

:2020年11月にザターミナルキョウトで行われた展示はどのようなイメージで取り組まれたのでしょうか。

 

日比:「ハレとケ」展では十二支美術館と日本むかし話の2つのシリーズのお披露目でした。 会場であるザターミナルキョウトの町家の雰囲気に合うよう、見せ方に工夫をしました。 十二支美術館では、町家探索をし、来場したお客様自身に干支を見つけてもらえるように。 日本むかし話では、誰もが知っている日本のお話を懐かしんでもらえるように。 額選びや掛け軸仕立て、モビールづくりや、のぞき穴工作など、 ひとつひとつが小さな作品をどう見せるか、試行錯誤を重ねました。

 

:刺繍とはどのような姿勢で向き合ってこられましたか。

 

日比:仕事では100年前の刺繍のお直しをしています。 どこまで手を加えていいものか、ここでは自我を控えめに、 その当時の職人さんの仕事と違和感が無いよう、対話しながらの作業です。 100年前の刺繍の糸をほどいた者にしか分からない発見に毎回感激しています。 糸一本でいろんな表現が出来ることを知るたび、自分でもやってみたいと思うようになりました。 自分の作品では遠慮することなく自己主張します。 昔の職人さんから教わったことを取り入れてみたり、 図案・配色・刺し方、どこに何を使おうか、悩みながら進めていくのが楽しいです。

縁側インタビュー

:銅版画から刺繍へ移行した理由を教えて下さい。

 

日比:「この子の着物にちょこっと刺繍があったらいいな」 趣味で御所人形をつくる母の一言がきっかけで、日本刺繍の体験教室へ参加しました。 大学で専攻していた銅版画ではモノトーンでの作品作りでしたので、 絹糸の光沢の美しさ、沢山の色、糸表現の可能性、 新しい世界の扉を開いてしまった…と衝撃的で、 図書館で日本刺繍の本を借り、1ページ1ページ真似していました。 銅版画も制作途中でのアクシデントがつきものなのですが、 刺繍もきれいな線がつくれなかったり、思い通りにいかないことがあります。 なかなか完成に辿り着かないところが、じれったくも魅力的で惹かれています。 ニードル(針)は違えど、どこか銅版画とつながっている気がしています。

金魚 刺繍

:伝えることについて難しいと感じることはありますか。 またその場合、どのように工夫されていますか。

 

日比:続ける難しさは感じています。 そもそも材料を調達しにくいという現状にはハラハラします。 でも刺繍が特別なものではなく日常に感じているのでやめられません。 私は自分のことを職人でも作家でもなく「ぬいこ」と言っています。 今できることを嘘をつかずに真面目にやる。 面倒なことを適当にせず、一生懸命やろうと心掛けています。 インパクトのあるものよりも、後でじわじわくるものをつくり続けたいです。 なが~~~~く使い続けてほしいので。

 

:じわじわくるイメージ。日比さんの作品からよく感じられます。(笑)本日はありがとうございました。

縁側インタビュー